題字「桐盛院」
越後・小国の郷
ほうじゅうざん
鳳住山
とうじょういん
桐盛院

法話

仏さまを思う心

昨年ご主人を亡くされた方が、「仏さまはどんな供養をしたら一番喜ぶでしょう」と尋ねられました。わたしは「亡くなられた方を忘れないこと、いつまでもその仏さまを思う心を持ち続けることじゃないでしょうか」と答えました。すると「忘れると言うことはないのですが、何をどうしたらあの人が一番喜んでくれるかわからないのです」とおっしゃるのです。

盆と彼岸はもちろん命日にも、東京からお墓詣りに来られる方がいます。
毎年、祥月命日にお経を上げに家にきてくださいという方、あるいはお寺で供養してくださいとお手紙をくださる方もいます。朝起きて顔を洗うと、第一番に仏壇の父と母にお詣りし、朝の挨拶をしてから一日が始まるという方がおられます。人様からの頂きものは必ず仏壇にお供えしてから家族で頂くというお宅もあります。起きるときと寝るときに自分だけに聞こえる声で亡くなった奥さんにおはようとおやすみの挨拶していると話してくれた方もおられます。お母さんの命日に合わせ、自分でとった野菜や花を何年にもわたって届けてくれている方もいます。
わたしが今見聞きしているだけでも信心や供養の形は様々です。

仏さまの供養だけを考えると義務感ばかり先に立ってしまうかもしれません。仏さまと一緒に自分の人生を生きていると考えてみませんか。

ご先祖さまがおり、その命を引き継いだ祖父母や父母から、限りない愛情と命を分けてもらって今の自分があることを思うのです。古代から、自分の命を削っても家族を養い、子供や孫を守り育てあげてきた多くのご先祖さまがいたおかげで、かけがえのない自分の命があるのです。
そのことに気づいたとき、自分が、ご先祖さまや祖父母、父母と一緒に人生を歩いていることに気づくのです。かけがえのない自分を大切にしなければならないと思うとき、ご先祖さまや祖父母、父母を大切に思うようになるのです。

いいことのあったとき家族と喜び、お仏壇の仏様にも報告し感謝します。生前のあの人の顔を思いだし手を合わせます。きっとにこにこしているはずです。つらいときや悲しいときは、祖父母や父母が見せてくれた我慢強さや明るさを思い出して頑張ります。仏さまも一緒に悲しみ、時には励ましてくれるはずです。先祖様や身近な仏さまがいつも家族の一員として心の中に生きていて、いつも自分を見ていてくれる。仏さまになったあの人がどこかで自分を支えていてくれると信じて毎日を送ることができたらと思います。その上で自分が毎日の生活の中で負担に感じることなくできる、精一杯の供養をしたらいいと思います。次のようなことから始めませんか。

自分の部屋と同じに、時には時間を見つけて仏壇の掃除をします。自分が飲むように仏さまにもお水やお茶をあげながら、自分や家族の近況報告など語りかけてみましょう。きれいだなと思ったら、庭に咲く一輪の花を飾り手を合わせます。そして、身近な仏さまの命日には家族全員が手を合わせ、心を合わせてお詣りをします。こんなことが習慣になればすばらしい供養だと思います。

七回忌や十三回忌などの年忌に当たったときは、きちんとした法事でなくてかまいません。仏さまにとって身近な方ができるだけ集まって、塔婆供養のお経にあいましょう。わたし自身、家族全員がお詣りしてくれている中でお経をあげるときは、いつもより嬉しくありがたい心で回向を唱えられるような気がします。家族が集まったら、仏さまのいい思い出などを話してもらえば何よりの供養になると思います。忙しくてすれ違いの多いみんなが集まる機会を持つことは、仏さまの供養をきっかけとして家族の絆を太く固くするはずです。

仏さまは何もいいません。不平も不満も言いません。しかし、あなたが仏様を思う心を持ち続けてくれる限り、あなたと一緒にいて、あなたを見守ってくれているのです。大事なあの人のことを忘れないで欲しいですね。

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